【編著者】
豊田秀樹・編著 (2012年8月)
朝倉書店
【執筆者】
尾崎幸兼,室橋弘人,池原一哉,中村健太郎,
川端一光,岩間徳兼,鈴川由美,久保沙織,
池原一哉,阿部昌利,大橋洸太郎,秋山 隆,
大久保治信
本書では,共分散構造分析(covariance structure analysis, CSA),あるいは構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling, SEM)と呼ばれる数理統計的手法における数理的基礎を論じる。SEMは柔軟な統計モデルである。だからこそ数理的な基礎は深く,複雑である。ただしSEMを利用して善き実践研究をするためには,必ずしも数理的な基礎を自家薬籠中のものとする必要はなかった。実質科学的な知見とのバランスこそが善き実践にとって重要だからである。また数理的基礎は原典で読むのが学術的な常道である。このため数理的基礎に関する解説書は,これまで需要が少なく,形になりにくかった。現在,英文でも本書のような書籍はない。
しかし多くの心理統計学者の努力により,SEMは実践的なデータ解析ツールとして我が国に定着し,もう10年以上のときが過ぎている。入門から上級レベルまで日本語だけで学習できる環境がすでに整っている。主要なソフトウェアの国別売り上げから推測すると,研究者人口当たりのSEMの実践頻度は世界一といっても過言でない。以上の趨勢,状況を鑑みるに,今こそSEMの理論的基礎を論じるときである。数理統計の理論は,必ずしも直ぐには実践研究に役立たないが,数学的基礎を確認しておくことは大切である。これがバラバラな原典を日本語で整理してみようと思った直接の動機である。しかし数理的基礎は,そのほとんどが数学で記述されているので内容が変化しない。その意味で経年による知識の目減りがなく,遠回りに見えて,本当は善き実践への近道なのかもしれない。
本書の執筆を通じて,その学術的内容から著者一同は十分な喜びを既に得ている。したがって先人が積み重ねた理論体系の偉大さ・美しさを,本書を通じてほんの少しでも読者の方に伝えることができたならば,それはもう我々にとっては望外の喜びなのである。
(本書まえがきより)
目次
まえがき
第1章 最尤推定法
第2章 GLS推定法
第3章 ADF推定法
第4章 擬似最尤推定法
第5章 楕円分布
第6章 非反復推定法・初期値
第7章 最適化と導関数
第8章 欠損値への対処
第9章 尺度不変と相関構造分析
第10章 確認的因子分析モデルの識別条件
第11章 不適解
第12章 制約解
第13章 一致性
第14章 感度分析
第15章 頑健性
第16章 ブートストラップ法
第17章 適合度指標
第18章 交差妥当化
第19章 Wald検定・LM検定・修正指標
第20章 同値モデル
第21章 検定力分析
第22章 残差行列と残差に基づく指標
第23章 効果の分析