川端一光(Ikko Kawahashi) |
博士論文 |
博士学位論文 |
「構造方程式モデリングによる一対比較型尺度構成法の開発」 -妥当性への脅威とその統計的対処- |
評価懸念による反応歪曲に対して,これを抑制・補正する定量的試みが現在までに数多くなされてきたが,その統計的補正効果は十分であるとは言い難い.反応歪曲に抗する心理評定テストモデルの開発は,実務・教育場面において急務である. このような現実的要請に対し,本稿では,社会的望ましさによるテストの妥当性の損失に関して,これを大幅に抑止する心理評定モデル並びに,尺度構成の標準的手続きについて,研究・開発を行ない,一定の成果を挙げている.またテストモデルの制約による妥当性の損失,不適切な標本抽出による妥当性の損失といった,尺度構成における主要なバイアスに関しても,統計的な対処によって事後的に妥当性を向上させる方法を併せて提示している. 第2章では,IRTにおいて代表的な項目反応モデルである名義反応モデルについて,ロジット内の関数に非線形関数を導入することによって,尺度得点の妥当性が向上することを確認した.また処遇の目的に併せた尺度選択の可能性を論じた. 第3章では,傾向スコアの推定に際して,ニューラルネットワークを用いることで,有意抽出調査の結果を,無作為抽出調査の結果に有効に近似させることを試みた. 傾向スコアの算出法としては,従来ロジスティック回帰モデルを利用することが多かったが,本稿での議論からニューラルネットワークを利用することで,より高い補正効果を得ることが可能であることが示された. 第5章では本稿の数理的基礎を与えるSEMによる一対比較法について詳細が述べられた.また第6章では,項目数が爆発的に増加する一対比較測定の問題に対して,比較回数が少ないにも関わらず妥当な解を得るための統計的手法を,SEMによる多母集団同時分析によって表現した. 第7章では,構造方程式モデリングを利用した一対比較型尺度構成法における,基礎的テストモデルが提示された.本モデルは,試料に対する平均的嗜好度$に社会的望ましさが含まれるという仮定を置くことで,EQ尺度得点からその影響を取り除くという特徴を有しており,リッカート法における尺度得点との比較から,テストモデルの有効性が確認された. 第8章では,第7章での成果を受け,社会的望ましさへの尊重度を統計モデルにおける母数として導入した.また尺度を表現する因子に関して,その因子パタンからタウ等価測定の仮定を外すことで,実質的にイプサティブでない尺度得点の算出を可能にした.また代替検査信頼性の観点から支持される折半検査も作成した.本章でも7章同様に,一対比較型テストモデルの反応歪曲に対する頑健性が強く示唆された.また先行研究では,社会的望ましさにおける個人差の測定に関しては,別個用意しているのに対して本テストモデルにはその必要は無いという大きな利点もある. 第9章では,モデルの安定性への配慮と,社会的望ましさの個人差からの影響の評価という観点から,社会的望ましさの個人差について被験者に回答を求め,これをテストモデルに導入した.また前2章同様に,代替検査信頼性の観点から支持される折半検査を得た. リッカート法との比較という観点から,社会的望ましさの個人差を導入したテストモデルは,第7章, 第8章と同様に,社会的望ましさに起因する反応歪曲に耐性をもつことが示された.従って,本稿で試みた全ての一対比較型テストモデルが,リッカート法よりも反応歪曲に対して頑健であることが明らかとなった.逆に,リッカート法の反応歪曲に対する脆弱性が強く示唆され,選抜的評価場面で実施されているリッカート型の性格検査に関して,その妥当性の低さが改めて予想される結果となった. 以上から,一対比較型尺度構成法は社会的望ましさによる反応歪曲に対して,一定の頑健性を持つことが示されたと総括できる.選抜的評価場面で利用される性格検査の為の尺度構成法としてその実用が期待される. |
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Last update: 20080701 |