佐々木研一(Kenichi SASAKI)
博士論文

博士学位論文

「一対比較モデルによる適合度検査の精度向上と実務的有効性に関する研究」

本研究は、企業の採用プロセスにおける適性検査の精度と有効性を向上させるための手法を提案するものである。 従来の適性検査は一律の尺度を使用しているため、企業ごとの特定のニーズに対応できないという課題があった。

これに対処するために、2章の研究1では「検査主体の求める人物像に合わせた尺度の個別設定を行える測定方法」を提案した。 この研究では、AHP(階層分析法)を用いて企業ごとに求める人物像に基づいて適性検査の尺度を重みづけする方法を開発した。 これにより、企業ごとの特定のニーズに対応した適性検査が可能となり、企業の採用プロセスにおける精度と有効性が向上した。 この方法の有効性は、実際の採用プロセスに導入され、従来の方法と比較することで検証された。

次に、3章の研究2では、企業における適性検査の複数バージョンが必要とされるが、研究1の方法は古典的テスト理論に基づいているため、 比較可能な複数のバージョンを作成することが難しいという課題に対処した。 この課題を解決するために、IRT(項目反応理論)を用いたモデル化を行った。 IRTを適用することで、検査項目間の比較が可能となり、異なるバージョン間でも一貫した評価が実現した。 また、IRTモデルを用いることで、少ない設問数でも信頼性の高い適性検査を作成することができ、 企業ごとのニーズに応じた複数バージョンの適性検査を提供することが可能となった。 しかし、IRTを用いた複数バージョンの適性検査を作成するためには、豊富な検査項目が必要であり、 設問の作成には多大なコストと時間がかかるという新たな課題が発生した。

これに対して、4章の研究3では「ChatGPT により生成された心理尺度項目の信頼性・妥当性の評価」を行った。 ChatGPTの大規模言語モデルを利用して新しい検査項目を生成し、その信頼性と妥当性を評価することで、この課題を解決した。ChatGPTを用いることで、 多様で質の高い検査項目を効率的に生成することができ、IRTモデルに基づく適性検査の表現プールをさらに充実させることができた。 生成された項目の評価を通じて、適性検査の精度と信頼性が一層向上し、企業ごとに適した人材選抜が可能となった。

5章では、以上の三段階の研究を通じて、本研究は企業の採用プロセスにおける適性検査の精度と有効性を大幅に向上させるための包括的なアプローチを提供するものである。研究1では企業ごとにカスタマイズされた適性検査の基盤を築き、研究2ではIRTモデルにより複数バージョンの適性検査を実現し、研究3ではChatGPTを用いた効率的な項目生成により豊富な検査項目を確保した。これにより、企業の特定のニーズに対応し、精度の高い人材選抜を実現するための具体的な手法を提供している。この総合的なアプローチは、現代の企業の採用プロセスにおける適性検査の新たな基準を確立し、より効果的な人材採用を支援するものである。

sasaki[アットマーク]ruri.waseda.jp
Last update: 20160105