【編著者】
豊田秀樹 (2015年6月)
朝倉書店
【執筆者】
久保沙織,池原一哉,秋山 隆, 拜殿怜奈,
磯部友莉恵,長尾圭一郎
この本は,ハミルトニアン・モンテカルロ法(Hamiltonian monte carlo method,
HMC法)を利用したベイズ統計学の入門的教科書です.文系・理系を問わず,ベイズ統計分析に入門を希望している方を読者として歓迎します.[HMC編]と題されていますが,ベイズ統計学に関しては予備知識をまったく必要とせず,最初歩からの講義を行います.ただし数学I,
II, A, Bの範囲(数学IIIと高校物理の知識は必要としません)と,伝統的な統計学の入門的内容(記述統計・検定推定の初歩など4単位分くらい)を習得していると,本書をスムーズに読むことができます.また本書の内容は,webから入手できるRとStanのコードによってすべて再現できますから,すぐに実践に供していただけます.
過去100年で,統計的データ分析にもっとも影響を与えた教科書を敢えて1冊だけ選ぶとしたら,多くの人がR. A. フィッシャー(Sir
Ronald Aylmer Fisher)の手による「研究者のための統計的方法」をあげることに賛成するでしょう.この本は1925年の初版から1963年の13版まで,たゆみなく改良が重ねられ,統計学を必ずしも専門としないデータ分析者に決定的な影響を与えました.
まさに金字塔である「研究者のための統計的方法」の第1章序説の中には以下のような有名な文言があります.「ただ統計学の概要を述べるに当たっては,私がかつて曲げなかった個人的信念を再び強調するだけでよいであろう.すなわち逆確率の理論はある誤謬の上に立脚するものであって,完全に葬り去らなければならないのである.」口を極めた激しい攻撃論調です.ここでいう「逆確率の理論」とはベイズ統計学です.問答無用でベイズ統計学を完全否定しています.たとえるならばベイズ統計学は,当時,絶大な影響力があったフィッシャーからデータ分析者に手渡されたけっ・EEEEオて開けてはいけないパンドラの箱でした.推計統計学の中心的理論を確立したJ.ネイマン(Jerzy
Neyman)もベイズ統計学を否定していました.いつしかベイズ統計学は,利用されないばかりか,大学教育で語られることも,ほとんどなくなりました.こうして20世紀後半,長きに渡ってベイズ統計学はタブーとなったのです.
時は過ぎ,21世紀になりました.2014年現在,統計学における著名な学術雑誌バイオメトリカ(Biometrika)の過半数の論文が,ベイズ統計学を利用しています.多くの著名な学術雑誌も同様の傾向です.スパムメイルをゴミ箱に捨て,日々,私たちの勉強・仕事を助けてくれるのは,ベイズ統計学を利用したメールフィルタです.ベイズ的画像処理によってノイズや汚れが除去され,劇的に美しくよみがえった名作映画を私たちは日常的に楽しんでいます.ベイズ理論が様々な分野で爆発的に活用されています.ベイズ統計学なしには,もうデータ分析は語れません.パンドラの箱は開いてしまいました.
いまやベイズ統計学者は多数派です.またすべての統計学者は多少なりともベイズ統計学を認めています.データ分析の主流もベイズ統計学に移行しました.21世紀はベイズ統計学の時代です.データ分析をしようとする人,統計学の勉強を始める人は分野を問わず,すべからくベイズ統計学を学ばなければならない時代になりました.(本書まえがきより)
目次
第1章 確率に関するベイズの定理
第2章 確率変数と確率分布
第3章 ベイズ推定
第4章 メトロポリス・ヘイスティング法
第5章 正規分布に関する推測
第6章 さまざまな分布を用いた推測
第7章 比率・相関・信頼性
付録1 章末問題解答例
付録2 補足資料
付録3 Stan導入
付録4 Stanコード
本書の訂正箇所の修正対照表を示します. 修正対照表(PDF)
また4刷以前をお持ちの方のために,差し替えのページも配布しています. 第7章差し替え(PDF)
最新のスクリプトに関しては朝倉書店の 本書ページ よりダウンロードしてください.