早稲田大学文学部文学研究科
豊田研究室

共分散構造分析[R編]

全体要旨

従来の多変量解析モデルの枠組みに捕われない柔軟なモデル構築を可能にする共分散構造分析は,いまや心理学の研究領域で幅広く利用されている。本シンポジウムでは,統計解析環境Rのパッケージlavaanおよびその関連パッケージを用いて共分散構造分析を実践するために必要な知識を,基礎から応用まで,Rのスクリプトともに解説する。lavaanは,Mplusという非常に完成度の高い共分散構造分析専用の商用ソフトウェアを目指して開発されているパッケージであるが,現時点においても,統合的なデータ解析環境としてはlavaanの方が優れていると言える。 まず,発表の前半では,初歩的なモデルを中心に,モデルの記述方法や結果の見方,母数への制約の入れ方,パス図の描画方法などを丁寧に説明する。さらに,後半では,平均共分散構造分析,多母集団同時解析,3次積率を利用した共分散構造分析モデルなど,応用的な話題も含める。

速習・共分散構造分析

共分散構造分析の大まかな手順は,1)研究仮説の構築,2)仮説を反映したモデルの表現,3)母数の推定,4)モデルの評価・結果の解釈である。lavaanで共分散構造分析を行うためには,自分の研究仮説を反映したパス図から構造方程式・測定方程式を導き,それに基づいてスクリプトを書く必要がある。本発表では,上述の手順に従って構成概念を含む初歩的なモデルを構成し,関数semを利用して共分散構造分析を実行する方法について説明する。

池原 一哉(早稲田大学グローバルエデュケーションセンター)

さまざまなモデルとパス図の描画

共分散構造分析において,分析結果を論文やレポート等で報告する際にはパス図による表現が便利である。パッケージlavaanで分析を実行したモデルは,パッケージsemPlotの関数semPathsを用いてパス図を描くことができる。そこで,MIMICモデル,PLSモデル,因子分析モデルといった代表的なモデルを取り上げ,lavaanによる分析方法とsemPathsによる描画のコツを併せて紹介する。

久保 沙織(早稲田大学)

関数lavaanを使いこなす方法

本発表ではlavaan関数を使いこなすことを目的とした内容を紹介する。また,そのために必要な諸関数についても適宜説明する。具体的には,データに関して最尤推定法を行えるかどうかを診断するために歪度や尖度を計算する方法や,lavaan関数を実行した結果から様々な有用なオブジェクトを取り出す方法,lavaan関数でのモデルの定義の仕方,母数の制約方法,そして修正指標の参照方法等について触れる。

大橋 洸太郎(立教大学社会情報教育研究センター)

平均共分散構造分析・多母集団同時分析

2つの属性の違いによる因子平均の差を検定したいなど,潜在変数の平均を知りたいという状況で行う平均共分散構造分析について,平均構造を組み入れる方法について紹介する。 また,国際比較,地域間比較など母集団が複数であることを考慮して分析する手法を多母集団分析(多母集団同時分析)と呼ぶ。この多母集団同時分析について解説するとともに,分析を行う上での注意点などについても併せて紹介する。

拜殿 怜奈(早稲田大学大学院文学研究科)

3次積率を用いたSEM

この発表では,構造化する積率の次数を3次に拡張した構造方程式モデリングを取り上げる。3次積率を利用した構造方程式モデリングでは,通常の2次積率の構造化によるモデリングでは推定や適合度による比較が難しいモデルを扱うことができる。2変数からなるいくつかのモデルを紹介し,それらを通して3次積率を利用した構造方程式モデリングの考え方や利点を具体的に説明するとともに,Rの関数を用いたデータ分析例を示す。

岩間 徳兼(独立行政法人国際交流基金日本語試験センター)