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第53回教育心理学会シンポジウム
質的研究の理論的サンプリングにおける理論的飽和度
於:北海道民活動センターかでる2・7 大会議室 自主企画25-J-01
企画者:豊田秀樹 司会者:秋田喜代美先生(東京大学) 講演者:豊田秀樹
記述的なデータを使って量的なものに還元しにくい言語的・概念的分析を行う質的研究(qualitative research)は,これまで科学的なアプローチを重視してきた様々な学問分野で認知され,近年,注目を集めるようになってきた。
量的研究が統計的サンプリングを利用するのに対して,質的研究ではその研究の過程において理論的サンプリング(theoretical sampling)を重視する。理論的サンプリングを,グレイザー・ストラウス(1996)は"理論を産出するために行うデータ収集のプロセス"と定義する。理論的サンプリングはリサーチの開始時点でサンプル数を予めはっきり決めておくことは難しい。
理論的サンプリングでは,研究テーマに関して,文献・面接・取材・自由記述等などの様々な媒体,あるいは単一の媒体からカテゴリーを抽出しカードなどの記録媒体に蓄積し,テゴリーのサンプリングを続けると,ある時点で,研究テーマに直結した新しいカテゴリに出会わなくなる(たとえば面接しても,新しい話があまりでなくなる)。この状態が近似的な理論的飽和である。
能智(2004)は,"理論的飽和に達するまで,つまり,理論やモデルが形をなし,それを使えば新たなデータも説明ないし了解が可能になるまで,サンプリングは続けられることになる。もっとも「飽和」の判断はそれほど簡単ではなく,実際には,できあがったモデルの説得力や整合性などの基準をみたした時点で,サンプリングが終えられることが多い。その基準については質的研究の評価方法とも関わってくるだろう"と述べている。
しかし現状では,質的研究の評価にとって重要な理論的飽和は,主観的判断に依存している。このため研究者は,お菓子をどこで買うのをやめるかと同種の主観的判断を強いられる。いつまでも新しい概念が登場しないのに理論的サンプリングを続ける用心深い(あるいは無駄なエネルギーを費やしている)研究者がいる一方で,いつくかの資料に新しい知見が登場しなくなったことを根拠にさっさと理論的サンプリングを打ち切る杜撰な(あるいは効率のよい)研究者もいるだろう。頼りになるのは研究者の個人的実感だけであり,研究者間で比較しにくい。さらに困ったことは,査読者や読者は,理論的飽和程度に関する実感すら得られないので,実質的に研究の評価に利用しずらいということが挙げられる。理論的サンプリングを打ち切った時点における,理論的飽和度の推定値が示されれば,質的研究の評価にとって有用な判断材料となることが期待される。
指定討論
吉田寿夫先生(関西学院大学)
無藤隆先生(白梅女子大学)
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